治療薬 生物学的製剤について

HOME > 治療薬 > 生物学的製剤について

生物学的製剤について

抗リウマチ薬であるメトトレキサート(リウマトレックス®など)を一定期間使用しても、病状をコントロールできない場合、生物学的製剤の使用を検討するべきだと考えます。これらの新しい薬は、抗リウマチ薬に比べても数倍高い抗炎症効果があります。

現在、国内で使用できる生物学的製剤には、レミケード®、エンブレル®、アクテムラ®、ケブザラ®︎、ヒュミラ®、オレンシア®、シンポニー®、シムジア®、アクテムラ®の8種類があり、いずれも有効性の高い薬です。

これらの生物学的製剤は、点滴または皮下注射で投与します。薬の種類によって投与のタイミングが異なりますので、リウマチ治療の経験豊富な医師の指示にしたがいましょう。

生物学的製剤といままでの薬との違い

生物学的製剤と今までの薬の違い

これまで主に使用されてきた抗チウマチ薬は、関節リウマチを引き起こす免疫の異常を修復することで、症状を改善する働きがありました。
しかし、これだけでは、多くの方で十分に病気の進行を止めることができませんでした。

生物学的製剤は、その免疫異常を起こす炎症性サイトカインと呼ばれる物質(TNF、IL-6等)の働きを止める薬と、サイトカイン産生へと導く前段階である免疫反応をコントロールしているT細胞の働きを抑える薬があり、関節の変形・破壊を止める働きや、関節の腫れ・痛みを改善する効果が飛躍的に上がりました。

生物学的製剤の使用

関節リウマチは、発病後なるべく早い時期からメトトレキサートなどの抗リウマチ薬で治療することが重要です。

メトトレキサートと生物学的製剤

しかし、抗リウマチ薬のみで症状や関節所見が十分に改善しない時には、生物学的製剤を使用します。生物学的製剤は生物学的製剤はメトトレキサートと併せて使うことでより高い効果が得られます。

生物学的製剤の種類

TNF阻害薬

TNFという関節リウマチの方の関節で免疫の異常を起こしている物質の働きを阻止し効果を発揮する薬です。TNFが作用しないように、TNFがくっつく場所をブロックするタイプ(受容体製剤)と、TNFが作用する前に捕まえてその作用をブロックするタイプ(抗体製剤)の2種類があります。

TNF阻害薬は世界的に使用期間が長いため多くのデータが出ているので、生物学的製剤の基準薬となっています。

レミケード®(抗体製剤)

点滴するタイプで、初回と2週後、6週後の治療が終わったら、8週間おきに点滴します。 点滴のため数日間の入院をすることもありますが、基本は外来での点滴です。

エンブレル®(受容体製剤)

皮下注射するタイプで、効果の持続時間がとても短いため、週に2回の注射を続けます。原則として週2回病院に通うことになりますが、自宅でご自身が薬を調整して注射する方法(自己注射)を選ぶこともできます。

ヒュミラ®(抗体製剤)

皮下注射するタイプで、効果の持続時間が長いため、2週間に1回の注射で治療が行えます。通院で注射することもできますし、自己注射をすることもできます。

シンポニー®(抗体製剤)

4週に1回の皮下注射。自分では注射せず、医院や病院などで皮下注射をしてもらうので、注射は自分では無理という方におすすめです。

メトトレキサートとの併用でより一層効果が高まり、他の皮下注射製剤に比べると注射部位の痛みはほとんどありません。 効果と副作用は他の薬剤と同様です。

日本では、2011年から使用できるようになったため日本人でのデータを蓄積中。

70歳〈 未満 〉の方がシンポニー®を使用する場合の自己負担額(月額)
新しい
所得区分
基準の目安 シンポニー®50mg
(1本)の場合
シンポニー®100mg
(2本)の場合
国保以外に
加入の場合
国保加入
の場合
通常 多数回
該当
通常 多数回
該当
標準報酬月額
83万円以上
年収
1,160万円以上
約38,000円
*1、*2
約76,000円
*1、*2
標準報酬月額
53万円以上
83万円未満
年収
770~
1,160万円
標準報酬月額
28万円以上
53万円未満
年収
370~
770万円
約76,000円 約76,000円
(44,400円)
*3
標準報酬月額
28万円未満
年収
370万円未満
57,600円*4 44,400円
住民税非課税 35,400円 24,600円 35,400円 24,600円

★表の緑の部分…高額療養制度が適用されます

  1. シンポニー®の薬剤料のみで試算した場合の概算です。
    検査や他の治療がある場合は、その分の医療費が加算されます。
  2. シンポニー®の薬剤料だけでは、高額療養費制度の対象となりません。
    そのため、表中はシンポニー®の薬剤料の3割負担の額を記載しています。
  3. 既に他の治療で過去12ヶ月間に3回以上高額療養制度の適用を受けている場合には44,400円となります。
  4. 2015年1月から従来よりも自己負担額が下がります。
70歳〈 以上 〉の方がシンポニー®を使用する場合の自己負担額(月額)
所得区分 負担の割合 シンポニー®50mg
(1本)の場合
シンポニー®100mg
(2本)の場合
現役並み所得者 3割 約38,000円
*1、*2
44,400円
一般 1割または2割
(2014年4月2日以降に
70歳になった方から
2割負担となります)
12,000円 12,000円
低所得者
(住民税非課税世帯)
8,000円 8,000円

(年金収入80万円以下など)

★表の緑の部分…高額療養制度が適用されます

  1. シンポニー®の薬剤料のみで試算した場合の概算です。
    検査や他の治療がある場合は、その分の医療費が加算されます。
  2. シンポニー®の薬剤料だけでは、高額療養費制度の対象となりません。
    そのため、表中はシンポニー®の薬剤料の3割負担の額を記載しています。

シムジア®(ペグ化抗体製剤)

2週に1回の皮下注射。ただし、初回、2週後、4週後には2本(400mg)ずつ皮下注射し、その後、1本(200mg)を2週間隔で皮下注射します。症状が安定している場合には、2本(400mg)を4週間隔で皮下注射することもできます。

他の抗TNFα製剤に比較してシリンジも工夫されていて使い易いという特徴があります。メトトレキサートと併用も可能で、その効果と安全性は他の抗TNFα製剤と同様ですが比較的早く効果が現れるのが特徴です。

シムジア投与画像

IL-6阻害薬

最近の研究では関節リウマチの方の関節では、IL-6という物質も関係していることが明らかになってきました。

IL-6受容体に対する抗体製剤は、その物質の働きを止める薬です。

アクテムラ®(抗体製剤)

点滴注射するタイプで、月に1回点滴します。点滴に数日間の入院をする場合がありますが、外来で点滴することも可能です。

T細胞阻害薬

免疫があやまって自分の身体を攻撃しないよう、免疫を司るT細胞の働きを抑え効果を発揮する新しいタイプの薬です。

IL-6受容体に対する抗体製剤は、その物質の働きを止める薬です。

オレンシア®

点滴注射するタイプで初回、2週間後、4週間後の治療が終わったら、4週間おきに点滴します。 点滴に数日間の入院をする場合もありますが、外来で点滴することも可能です。

2013年から皮下注射も可能となり、より効果を高めるために治療初日は、点滴静注と皮下注射を同日行い、その後、週1回皮下注射を行います。
また、最初から週1回の皮下注射から開始することも可能です。

低分子標的薬(JAK阻害薬)

トファシチニブ(ゼルヤンツ®)

関節リウマチの臨床症状の改善・関節破壊進行の抑制・身体機能の改善が臨床試験により証明された経口薬です。

2013年3月に承認されましたが、日本リウマチ学会によるとメトトレキサート週8mgを超える用量を3ヶ月以上継続してもコントロール不良の関節リウマチの方に使用されることが望ましいとされております。

また、安全性の面からもメトトレキサートの服用ができない方は、お勧めしないことが望ましいとされております。トファシチニブ(ゼルヤンツ®)は、1回5mgを1日2回服用します。

トファシチニブ(ゼルヤンツ®)の利点

  • 経口薬である。
  • 半減期が約3時間と短い。
  • 服用開始早期から治療効果が見られる。
  • 既存の生物学的製剤と異なり複数の関節リウマチを悪化させるサイトカインを同時に抑えることができる。

トファシチニブ(ゼルヤンツ®)の欠点

  • 費用としては、既存の生物学的製剤とあまり変わらない。
  • 重篤な副作用として帯状疱疹、肺炎、敗血症、結核、消化管穿孔、好中球減少、リンパ球減少、肝機能障害、間質性肺炎がある。

生物学的製剤 一覧表

商品名 アクテムラ レミケード エンブレル ヒュミラ シンボニー シムジア オレンシア
一般名 トシリズマブ インフリ
キシマブ
エタネル
セプト
アダリム
マブ
ゴリムマブ セルトリズ
マブペゴル
アバタセプト
作用対象 IL-6 TNFα TNFα TNFα TNFα TNFα CTLA4
投与経路 皮下
注射
点滴 点滴 皮下注射 皮下注射 皮下注射 皮下注射 皮下
注射
点滴
1回の
投与量
162mg 体重
1kg
あたり
8mg
体重
1kg
あたり
3~10mg
25mg
または
50mg
40mg
または
80mg
50mg
または
100mg
200mg
1本
または2本
125mg 体重に
あわせて
500mg
または750mg
または
1000mg
投与間隔 2週毎 4週毎 0,2,6週、
以後
4~8週毎
週に
1~2回
2週毎 4週毎 0,2,4週、
以後
2~4週毎
1週毎
(初回のみ同日
に点滴製剤の
併用が可能)
0,2,4週、
以後
4週毎
併用 単独も可 MTX併用
が必須
単独も可 単独も可 単独も可 単独も可 単独も可
半減期 点滴の場合
5~8日
8~10日 3~5日 9~16日 10~14日 14日 点滴の場合
10日
承認 点滴
2008年
2003年 2005年 2008年 2011年 2012年 点滴
2010年
開発 日本 米国 米国 米国 米国 英国 米国

生物学的製剤の副作用

生物学的製剤は免疫の働きを抑えますので、感染症(細菌性肺炎・結核・など)にかかりやすくなります。マスクの着用やうがい手洗いなど、感染の予防に気をつけるとともに、熱や咳などの症状が出た際には速やかに主治医に相談することが肝心です。

また、アクテムラ®やレミケード®、オレンシア®は点滴注射のお薬ですので、点滴の際、一過性の発疹や頭痛などがみられることもあります。
投与時反応がでにくくする管理をすることが大切です。

一方、エンブレル®、ヒュミラ®、シンポニー®、シムジア®は皮下注射ですので注射した部分が赤く腫れることもあります。

生物学的製剤を選択できない場合

関節リウマチの勢いが強く、このままでは関節破壊が抑えきれないときには現時点では生物学的製剤による治療が主流となりますが、高額であるがため、その恩恵に与かることのできる方は限られてしまいます。

そこで、当院の試みとしては、このたび日本で行われた試験結果を元にデノスマブという骨びらんを抑える効果が証明された皮下注射による治療に積極的に取り組んでおります。

デノスマブ(プラリア®)の使用方法

デノスマブ(プラリア®)60mgを6ヶ月に1回皮下注射が基本です。

なお、デノスマブ(プラリア®)60mgを6ヶ月に1回皮下注射をしても骨破壊の進行が認められた場合には、3ヶ月に1回の皮下注射に変更をすることが可能です。
デノスマブ(プラリア®)は、関節の腫れや痛みには効果が乏しいため、抗炎症作用を持つ抗リウマチ薬と併用することが基本です。
金額は保険が使えますので3割負担の方ならば年で約17000円、1割負担の方ならば約5700円。 年で約50万円の生物学的製剤を使用した場合を想定すると、その負担は少なくて済みます。

  • STEP.01
    関節リウマチの勢いが強く、こののまでは関節破壊の進行が抑えられない
  • STEP.02
    高額な生物学的製剤は残念ながら選択できない
  • STEP.03
    デノスマブ(プラリア®)に骨破壊抑制効果があるため、生物学的製剤の代替治療として提案する。
 

治療を受けている際の注意すべき感染症

関節リウマチにおける生物学的製剤の治療を受けている際の感染症として、まず注意しなければならないものは 細菌による肺炎です。

この細菌性肺炎は、肺胞内に侵入した細菌が増殖することで発症しますが、われわれの体には細菌に対する攻撃部隊 である好中球がもともと備えられております。しかし、せっかく備えられていても実際の感染部位に到着するのに約24時間くらいかかってしまいます。24時間後くらいから、やっと攻撃部隊が感染部位に到着し攻撃を始め、感染部位が徐々に限局されていきます。これが肺炎治癒の流れです。

この攻撃部隊である好中球を感染部位まで、効率よく誘導するために重要なものがTNF、IL-1、IL-6、 IL-8などのサイトカインと呼ばれる物質です。生物学的製剤が抑えているものの代表といえば、TNF、IL-6です。つまり、生物学的製剤治療中は攻撃部隊を感染部位まで誘導する力が落ちていると考えてしまえば、 細菌感染である細菌性肺炎の発症頻度が多くなるのも、なるほどと思いませんか。

生物学的製剤を選ぶにあたっての実例

生物学的製剤による治療により良好な状態を保てることが多くなりました。
しかし、高額であるため、その恩恵を受けられる方は多くはありません。

数々ある生物学的製剤の中で自分にとって有効な薬剤が予測できれば良いのですが、予測検査自体も高額で予測成績も満足したものではありません。

そこで、7つの生物学的製剤がどのように選択されたかを実例として示すことで治療選択の際の参考になればという思いで実例を挙げていきたいと思います。

実例01

60代女性、関節リウマチと診断されてから6ヶ月目。
メトトレキサート6mg/週による治療をしても中疾患活動性(かなり病気の勢いがある)の状態。
メトトレキサート6mg/週で肝機能障害を来し増量できない。
治療開始前の胸部レントゲンは異常なしであったが胸部CTを追加してみるとわずかながら間質性肺炎が見つかった。

「関節痛のためトイレに行けません。痛みの程度もどんどん増す一方で動けなくなってきました。このままでは不安です。なんとかしてください。」

選択

関節症状は日に日に悪化するばかり。肝機能障害や間質性肺炎を伴うためメトトレキサートによる治療は中断せざるをえない。

皮下注射はご自身では無理ということで短期間のプレドニゾロン5mg内服とアバタセプト(オレンシア®)による治療を選択された。

ページのトップへ戻る